桝田さんの写真8
子どもたちに指導を行う桝田さんの写真9

ますだ・ゆうすけ。1990年5月16日生まれ。広島県呉市出身。県立広島皆実高等学校卒業。2009年鹿屋体育大学入学。京都ハンナリーズ、福島ファイヤーボンズ、岩手ビッグブルズ、東京サンレーヴス、しながわシティを経て2022年春現役引退。現在、岩手ビッグブルズ職員アカデミーコーチ。

子どもの頃からスポーツをしてきた者にとって、プロは憧れの存在だ。2013年に鹿屋体育大学を卒業した枡田祐介さんは、BJリーグとBリーグで9年間にわたってプロ選手として活躍してきた。京都ハンナリーズ、福島フォイヤーボンズ、岩手ビッグブルズ、東京サンレーヴスなどに所属し、今年の春、シーズン終了後に引退を決意した。ディフェンスガードのポジションで、以前に骨折してボルトが入っている右手中指骨を再び骨折してしまったことが引退を決断させたと言う。身長184センチでシューティングガードというポジションゆえに、体躯の大きな外国人のシュートをガードするのは怪我と隣り合わせのハードな仕事だった。

インターハイ3年連続出場を果たした県立広島皆実高校を卒業後、鹿屋を選んだのは、教員になりたいという思いが強かったことと、両親が国立の大学を望んだこと、さらには東京の大学に進む勇気がなかったからだという。遊ぶところもない環境の中、ただひたすらボールを追う生活で、インカレにも4年連続出場を果たしている。振り返って、大学の授業で印象に残っているのは木葉一総准教授の「審判から見たバスケットボール」だそうだ。それまで自分の主観でしか考えてこなかったプレーを客観的にみられるようになり、バスケットボールを多面的に考えられるようになった。「当時は根拠のない自信にあふれていたんですよ」という枡田さんは、4年生になって就職活動をすることもなく、プロの道を選ぶ。広島の両親は大反対だった。
卒業した年にBJリーグの京都ハンナリーズから指名を受けて入団するものの、出番は少なかった。現在Bリーグでは試合に出場できる外国人選手は2人だが、当時は3人まで出場できた。高校、大学と自由自在に動き回ってきた華やかなシューティングガードの役割は、プロになって要求されるものががらりと変わった。監督からは、「シュートは外国人に任せて、ディフェンスに集中してほしい」と言われた。求められる役割の分担、まさにプロの洗礼だった。自分の中で感じたギャップは少なくなかったという。戸惑いながら初シーズンは16試合だった出番は、翌シーズンには47試合と格段に増えた。このあたりに枡田さんの対応能力の高さが見て取れる。

プロとして悩みながら試行錯誤を続ける中で、うれしかったのは、あれほど反対していた両親がほどなくして試合を見に来てくれたことだ。やはり家族に認められることは何よりも安心につながる。プロの9年間の生活を振り返って、よかったこととして東北の人々との出会いも挙げてくれた。

東日本大震災で原子力発電所が爆発し、甚大な被害を受けた福島の人々。その福島にあるファイヤーボンズに2015年から所属することになる。ファイヤーボンズは、原発の影響で家の外に出ることもままならず、肥満傾向にある子どもたちを何とかしたいと作られたアカデミーから立ち上げて作られたチームだった。枡田さんはチーム創立2年目に入団した。新しいチームを作り上げていく面白さを感じながら、さらには疲弊する地元の人たちの心に元気を取り戻してもらいたいというミッションを強く感じながらプレーをする日々だった。地元密着のチームでスポーツが持つ力を強く感じることができた経験は、今振り返っても多くの歓びを思い出させてくれるようだ。

さらには、引退を決めた今年の春、2017年から2年間プレーをしていた岩手ビッグブルズの社長から直々に「球団職員としてアカデミーコーチをしてほしい」という依頼が舞い込んだ。これも枡田さんのプレーと人柄を見込んでのことだった。現在は月曜日から木曜日まで、4つの地域を移動しながら、100人弱の子どもたちを指導している。モットーはバスケットボールを楽しんでもらう事。その延長線上に上達があればいいと考えている。自らの子ども時代を振り返ると「正直あまり楽しかった思い出がない」という。これからの子どもたちには一方的にコーチが押し付けて教えるスポーツではなく、子どもたち自身が多くのことを面白がりながら発見していくスポーツが求められていることを枡田さんは身をもって感じているようだ。

現在、枡田さんのほかに、鹿屋体育大学の卒業生、月野雅人さん、横川俊樹さんの2名が岩手ビッグブルズに所属している。九州南端で培ったスポーツへの想いを東北岩手で存分に発揮してほしいと思う。

(スポーツ文化ジャーナリスト 宮嶋 泰子)

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