鹿屋体育大学72774

自分が表に出るのは好まないが、心に秘めた母校愛は強く、学長補佐としての任務を遂行するために大学の将来をあれこれと考え、地道にコツコツと努力を重ねていざという時に頼りになる縁の下の力持ち的存在の田巻弘之先生。「授業が楽しくて、さぼったことはほぼなかった」の言葉が示す通り、恐らく学生時代から洞察力が高く、物事を冷静に分析し、テキパキと研究をこなす姿が指導教員の目に留まり、研究者としての今日があるのだと思う。体育会系ながら草花を愛でる、ロマンチストでやさしい一面も。一般的に連想される「関西人=にぎやかで目立ちたがり屋」の図式を壊す、「シャイな関西人」である。

―田巻先生の研究内容をひとことで教えてください。

田巻 「骨を刺激して、全身を健康にする」をテーマに研究しています。骨がひずむと内分泌系と同じで筋肥大や血糖値改善、認知機能など心身の健康に関連するホルモンを出すということがわかってきて、最近は、それに有効な骨のひずませ方を研究しています。

―田巻先生は本学の4期生ですが、大阪から鹿屋体育大学に進学しようと思ったのは?

田巻 小学6年生から少年硬式野球のボーイズリーグに入っていたのですが、子どもの頃から体育はずっと好きだったので、体育大に行きたいという気持ちは心のどこかに持っていたように思います。私立の体育大学は関西や関東にもありますが、国立の体育大学は鹿屋しかなかったこと、開学したばかりで新しいということが魅力的でした。実際に来てみたら、授業がめちゃめちゃ面白かったですね。「スポーツを科学する」という学問が、自分の中でヒットしたのだと思います。

―学生時代で思い出に残っているのは?

田巻 寮生活でしょうか。今の時代は隣の人がだれなのかもよく知らないといった人が多いと思うのですが、当時の学生寮は自分の部屋に鍵をかけることもほとんどなく、帰ってきたら知らない人が部屋を間違えて酔っぱらって寝ていて「お前だれやねん?」みたいなことが日常茶飯事で起きていました。知らない先輩と飲んでいるのは、しょっちゅう。先輩も後輩もユニークな人材がそろっており、日々学年を超えた交流を楽しめました。初めて鹿児島空港から鹿屋を訪れたときは、1時間半も山の中をバスに揺られていったいぜんたいどこに連れていかれるのかとものすごく不安になりましたが、いざ生活が始まると遊ぶところがなくても何も問題なかったし、ひたすら勉強とスポーツに打ち込めてとてもいい時代を学生として過ごさせてもらったと思っています。

―大学院への進学は最初から考えていたのですか?

田巻 大学院ができたのが大学2年生の時ですから、大学院に行こうとか、正直何も考えていなかったですね。指導教員=師匠に「どう?」と言われたから行った。アメリカ留学も「どう?」と言われて行った。我々の時代はまだ本学に博士課程がなかったので、鹿児島大学で医学博士を取得した。そんな感じで、気が付けば大学教員になっていました。研究者への道は一般的には大変だと言われていますが、私の場合は流れに身を任せる感じで、でもそれは私自身が知らない間に先生や先輩方が道を整理して、道の真ん中に大きな石があったらそれを私の知らないところでのけてくださっていたのだと思います。私はと言えば、自分で道を切り拓いたと勘違いして、それが自分の自信となって生きてきました。でも実は、先生方の手厚い蔭のサポートがあったからこそ今日の自分があるのだと、今頃になって気づかされます。我々の時代の指導教員の先生方は、そういう陰徳をもって化す的な指導をされていました。私自身も師匠のようになりたいと思いながら、学生には接しているつもりです。

―一度母校を離れて新潟医療福祉大学に行かれたことで、何か発見がありましたか。

田巻 新潟では学生に対して怒る、という感情が一度も芽生えなかったんですね。自分では年を取ったのかな?と思っていたのですが、再び母校に帰ってきて時々、学生に対しておい!ってツッコミたくなるんですよ。何でだろう?と考えたら、後輩だからだということに気がつきました。自分の子どもには腹が立つけど、よその子どもには腹が立たないじゃないですか。それと同じで、後輩だから「それでええんかい!」ってなってしまうんです。ここでは学生と自分の心の距離が近いんだと思います。母校の教壇に立てる、ということはありがたいことなのだと改めて感じました。

―硬式野球部の副顧問をされています。学生時代はご自身も硬式野球部に所属していたと伺っておりますが、創部以来初の全日本大学野球選手権大会でのベスト8進出、うれしかったのでは?

田巻 OBが喜んでいるのを見て、それがまたうれしかったですね。同時に神宮に行けたことでこんなにみんなが喜んで、野球というスポーツは日本ではやはり特別なのだということにも気が付きました。

―ところで、草花がお好きだそうですね。

田巻 花を育てるのは人間を育てるのと同じで、水や肥料をやりすぎてもダメだし、いい花を咲かせようとしたら、ある程度密集してきたら間引かないといけないじゃないですか。間引くって作業はちょっとつらいんで、私はあまりやらないんですけど、花を育てていると組織論がすごくよくわかるようになります。うまく育ってこないのはなんでかな?と考えたり、学生になぞらえて自宅のベランダで育てています。花そのものも好きなんですけど、1番は根っこがぐわ~っとなっているのを見るのが好きですね。枝葉末節にこだわっていても物事が解決しないのと同じで、たぶん本質を見るのが好きなんだと思います。出張に行くときにまず心配するのは「花の水、どうしよう」。アホかって思いますよね(笑)。

―最後に田巻先生が感じている本学の魅力と、学生へのメッセージをお願いします。

田巻 一人ひとりが持っているポテンシャルが高い大学なので、全員が同じ方向を向けばものすごい力を発揮できる可能性を持った大学だと思います。ただ国立大学は民間企業ではないので、多くのベクトル調整が必要で簡単にできないのも事実です。それぞれが自分の専門分野を極めて、自由に活動、開花できるのが国立大学の魅力なのかもしれません。学生に対しては、やりたいことをやれる最後の4年間なので「ふりむくな、ふりむくな、後ろには夢がない」という寺山修司の詩にあるように、周りの目を気にすることなくやりたいことを精一杯やってほしいですね。

(取材・文/西 みやび)

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