鹿屋体育大学49969

物静かで穏やかだが、一度決めたことを貫き通す意志の強さを感じる。学会賞受賞の報告メールが控えめで逆に印象に残り、直接話せる日を心待ちにしていた。迫田和之先生は優等生の勤勉タイプと思いきや、物理学者になったのは子どもの頃から読んでいた漫画の影響かもしれないと話す、そのギャップがまた面白い。大好きな物理を職業にするという夢を叶えるために、常に向上心を持ち、地道にコツコツと精一杯の努力を重ねてきたのだと思う。まさに、チャンスの神様の前髪をつかんだ人生である。

―迫田先生の研究をひとことで言うと?

迫田 工学の諸問題に対して物理的な考察を行っています。たとえば、携帯電話とかの無線通信をもっと高速にしたり、もっと大容量の通信ができるようにしたりしようとするとさまざまな問題点が起きるので、そこを物理学の視点からアプローチする、といった感じです。工学の分野で物理学的視点から物事を見つめると、けっこう新鮮な目で見ることができて新たな解決方法が浮かんだりするんですよ。

―2022年度(第75回)電気・情報関係学九州支部連合大会において発表した論文「大規模MIMOにおけるBP複合の誤り推定値の挙動:分類のその比率」が、334件の発表の中から7件に選ばれ「連合大会講演奨励賞」を受賞しました。広報への報告メールに「体育大として広報する価値があるかどうかの判断は委ねます」といった謙虚な内容の文言があり、びっくりしました(笑)。

迫田 受賞内容がスポーツや武道との関連性として正直どうなのだろうと思いました。物理の世界はいい成果がでなくても、初めてやってみたよっていうのが評価されたりするんです。もっと広い目で違う方法でやってみたら面白いことが起きるよっていうのが物理の視点なので、今回の受賞は次の研究ステップにつながる重要な研究結果と考えられての受賞だったのかなと自分では思っています。

―本学に着任して半年が過ぎました。

迫田 今年1月1日に学内に新たにスポーツイノベーション推進機構が設置され、先日行われたキックオフミーティングに参加しました。本学には、大学として研究をもっと深めていこうという活発な動きがすごくあるという印象を持っています。

―大学の教員になろうと思ったのは?

迫田 数学と物理が好きだったので、大学は広島大学の物理学科に入学し、卒業後に東京工業大学の大学院に進学しました。研究職に就きたいという思いはずっとあって、いろいろ調べていくうちに、自分の好きな研究を突き詰められるのは大学教員だという結論に至りました。実は東工大の修士課程修了後に企業で2年、鹿児島市役所で技師として2年間働いていました。環境にも恵まれていたので、公務員としてそのまま市役所で仕事を続ける道もあったのですが、大学院での研究が宙ぶらりんになっていたのがずっと気になっていました。ゆくゆくは大学教員になって自分の研究をしたいと思っていたので、2016年に都城高専に教員として転職、働きながら鹿児島大学の博士課程を2020年に修了し、2022年9月で高専を退職して昨年10月1日付けで本学に着任しました。企業と公務員の両方を経験しているので、学生の進路相談にも乗れたらと思っています。

―迫田先生ご自身はどんな学生でしたか。

迫田 アルバイトもしていましたし、ごく一般的な大学生だったと思います。授業もほぼ休まず、という感じだったのですが、大学院生の時に2回だけ講義を休んだことがあります。大好きな漫画家の先生がサイン会をするというので、「絶対に授業には出たいと思っているんですけど、どうしてもサイン会に行きたいので休んでいいですか」って2人の先生に許可をもらって休みました。

―漫画家のお名前は?

迫田 藤田和日郎先生と皆川亮二先生です。皆川先生は物理が好きで、作品にも電磁波の話題が出てきたりするので、小・中学生の頃から皆川先生の漫画を読んでいた影響で物理が好きになったのかなと自分では思っています。漫画は面白いし、読むと知識が増える気がします。最近は忙しくてなかなか漫画を読む時間がありませんが、実家には今でも漫画喫茶みたいに漫画があるんですよ(笑)。

―ところで、ご自身は何かスポーツをされていたのですか?

迫田 3つ上の兄の影響で小学校4年生から高校までバスケットをしていました。中学時代はチームが強くて、九州大会にも行きました。でも高校まででやめてしまったので、たぶんそこまで好きではなかったのだと思います。

―うちの学生に望むことは?

迫田 卒業後にスポーツ関係の道に進む進まないに限らず、情報処理の授業はしっかり受けていた方がいいと思います。情報処理の知識と技術を持っていれば、社会に出たときに重宝されると思います。

―最後に座右の銘と今後の抱負を教えてください。

迫田 「乗りてえ風に遅れたヤツは、間抜けってんだ」とは、アニメ化もされた藤田和日郎先生の『うしおととら』に出てくるセリフです。待ってたって何もいいことないからちゃんと自分で動きなさいっていう意味なんですが、これまでの人生を振り返るとタイミングが合えばちゃんとそれに乗っかって、自分から動いて、というのを無意識のうちにやってきている気がします。今後は専門の物理で、スポーツ関係にうまく切り込んでいけたらと思っています。あとは自分の研究を、細々とでも続けていきたいですね。

(取材・文/西 みやび)

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