日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ人文・応用社会科学系 坂口 俊哉

スポーツ人文・応用社会科学系 坂口 俊哉

東京での学生時代の話を聞いたところで、早くも1時間が過ぎてしまった。「名古屋には15年いたので、あと3時間はかかりますね」とまじめな顔で言う坂口俊哉先生。面白い話は尽きず、寡黙なイメージはすぐに吹き飛び、明るくて陽気な先生であることに気が付いた。好奇心は半端なく旺盛で、人生に何一つ無駄なことはないことが自身の経験から説得力を持って伝わってくる。子どもの頃のわくわく感やドキドキ感はいまも大切に心の奥にしまってあり、どうすればそれを研究と結び付けられるのか、アンテナを張り巡らせながらきっと常にそんなことを真剣に考えているのだろう。学問としてのスポーツの新たな可能性が垣間見えたような、そんな気がした。

坂口先生の研究内容をひとことで教えてください。

坂口 アウトドアスポーツを対象にしたマーケティングとマネジメント領域の研究をしています。現在BS-TBSテレビで「ヒロシのぼっちキャンプ」を放送中ですが、グランピングやソロキャンプなどが流行し、1990年代に続く第二次キャンプブームと言われるほど今再びキャンプブームが起きています。研究者の立場としてはこれをブームで終わらせたくなくて、定着させるにはどうしたらいいんだろうねっていうことを考えています。

東京学芸大学のご出身ですが、学生時代はどんなことをされていたのでしょう。

坂口 北海道から東京に出てきて、最初はフィットネスクラブでアルバイトをしていました。企業のフィットネス、いわゆる筋トレベースのマシーンの使い方を指導したり、プールの監視員をしたり、閉店後の掃除を主にやっていました。私が大学1年生だった1990年はスキューバダイビングが流行っていて、アメリカのダイビングショップが日本で事業を展開するために日本語と英語が話せるインストラクターを募集しているという話を大学の先生から聞いて、若い時って怖いもの知らずなので英語ができるわけでもないのにハイ!って手を挙げたんですよ。でもダイビングのライセンスも次々に取得して、話が進んでいく中でバブルがはじけて会社がなくなってしまったんです。かといってフィットネスクラブのバイトもそろそろ飽きがきていたので、バイト先の上司に辞めようと思って相談したら、いいところがあるよって紹介してもらったのがキャンプ場だったんです。

キャンプ場ではどんなバイトを?

坂口 経営している会社は東京でしたが、キャンプ場自体は福島にあって、キャンプ場の駐在員として利用団体のスケジュール調整や土木工事のような仕事などを日給5000円ぐらいでやっていました。そのうちに学生が企画運営をするキャンプをしましょうというオファーが会社からあって、東京・南青山のおしゃれな街の一角にあるオフィスで週1回ぐらい学生が集まって会議をしてキャンプメニューの企画や集客、パンフレットの制作などをしていました。私たち学生はボランティアなので賃金は出ないけれど、「楽しみながらアウトドアの生活を10日間タダでやる」みたいなことを実際にやっていたのですが、当時のキャンプとのかかわり方が実は今の私の仕事につながっています。

大学卒業後は中京大学の大学院に進学されましたが、どんな研究をされたのでしょう。

坂口 博士課程時代の研究のテーマは、スポーツ消費者の「involvement:関与」という概念についてです。簡単に説明するなら、私たちはなぜスポーツにハマってしまうのか? ハマり方にはどのようなパターンがあるのか? ハマっている度合いを見分けるための方法は? といった内容です。もちろんハマらない人もいて、そうした人たちからはスポーツをしていることを不思議がられたりもします。博士課程ではゴルフ、釣りといったスポーツを対象にしていたのですが、釣りを研究対象にするのなら自分ができないといけないと思って、中京大の教員駐車場でひたすらフライフィッシングのキャスティング練習っていうのをやっていました。レクリエーション担当の先生に、駐車場の魚がいなくなっちゃうじゃないかって冷やかされましたけど(笑)。自分自身がスポーツにハマりやすい性格だったんですね。

坂口先生から見た本学の魅力は?

坂口 施設や学生数に対する教員の数といった点も含めて、教育環境には恵まれていると思います。スポーツに関する勉強や研究をしたいのであれば、国内で鹿屋体育大学を上回る大学はそうそうないと思います。ただ学生がその環境を使いこなせていないのはもったいないですね。自分の専門にあまりにも特化しすぎて、極端なたとえ話で言うと、卒業した後にうちの大学ってプールがあったんですね! ということにもなりかねない。
アウトドアエデュケーションって私の専門分野ですが、野外教育やアウトドアスポーツを勉強したい人にとって、こんなに恵まれた環境の大学はないです。海洋スポーツセンターがあるのも鹿屋体育大学だけですよ。これでキャンパス内にキャンプ場があれば言うことなしですね。学生にはぜひいろんなことにチャレンジしてほしいし、スポーツから他の世界を見る、ということを意識してほしいです。

坂口先生の専門分野から学生に期待することは?

坂口 卒業後の進路として、観光業や旅行業に行きたいと思っている学生にも鹿屋体育大学に来てほしいです。スポーツツーリズムという言葉があるように観光とスポーツはものすごく近くて、観光学を学んだ人の方が観光の業界に出やすい傾向にあるのが現状ですが、スポーツを学んだ人が観光の世界に出ていくことでより本質的なスポーツツーリズムのサービスが展開できるようになると私は思っています。

最後に坂口先生の趣味を教えてください。

坂口 まずは研究分野でもある釣り。共同購入ですが、船を持っています。趣味と実益を兼ねているのですが、授業で学生に刃物やナタナイフの使い方を指導するので、ナイフを使って木を削ってカトラリーをつくって子どもたちの誕生日にプレゼントしています。何やってるの? って思うでしょう。そういうの私の仕事なんですね~。夏休みの自由研究で古式火おこしもやりましたよ。料理もDIYも大好きです。楽しいって感じられることが学ぶうえでは大切で、楽しむためにどうしたらいいかを工夫していけば、きっと世の中良くなると思いますよ。

(取材・文 西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。