日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ人文・応用社会科学系 関 朋昭

スポーツ人文・応用社会科学系 関 朋昭

取材日に間に合うように通販で手に入れた関朋昭先生の著書『スポーツ原論』を差し出してサインを求めると、「えーっ!」とちょっぴり照れくさそうにはにかみながらも応じてもらえた。宛名の下には「鹿屋万歳!!」の文字がうれしそうに踊っている。「理想的な組織とは」「なぜ人は足を引っ張り合うのか」「負けないマネジメント」など、研究テーマの言葉の選び方のセンスが抜群で、直接会って話ができることを楽しみにしていた新任の先生のひとりである。北海道の大地を思わせるおおらかさと繊細さを持ち合わせ、哲学者の風貌ながら気難しさや近寄りがたさは微塵もない。誕生日に鹿屋に着任したのも運命と、新たな土地で研鑽を重ねる日々を送る。

関先生の研究内容をひとことで言うと?

関 マネジメントという領域を専門としてやっていますが、つきつめていくと人間の研究になるのかなと考えています。1つ具体的に例を挙げると、会社に限らずスポーツの世界でも言えるのですが、人が集まって組織化すると必ず大なり小なり足を引っ張ったり、陰口を言ったりという行為が見られるのはなぜなのか、人はなぜそんなことをしてしまうのか、といったことを哲学的に研究しています。

一昨年9月のご自身の誕生日に本学に着任されました。生まれも育ちも北海道。半世紀を過ごされた地元を離れて、なぜ鹿屋に?

関 たくさんの方から何で来たの?って聞かれるんですけど、自分でもわからないです(笑)。最終的には家族も両親も仕方なく賛成してくれましたが、正直今さら自分探しもないだろうと思いながらも、それも少しはあるかなと思ったりもしています。今回鹿屋に行きたいっていう話を親にしたら、自分では覚えていないのですが「あんた、高校生の時鹿屋に行きたいって言ってたよ。筑波じゃダメなんだ。新しい大学でチャレンジすることに意味があるんだって、えらそうに粋がって言ってたよ」って言われました。大学進学で外に出たかったのですが、結局地元に残ってしまったので違う土地に行ってみたいという気持ちがまだどこかに残っていたのかもしれません。運命に導かれるように、鹿屋に来てしまったと感じています。

3月に最新刊『スポーツ原論 スポーツとは何かへの回答』がナカニシヤ出版から発刊されました。アイデアから書き終えるまでに、12年の歳月を要したそうですね。

関 文章自体は鹿屋に着任して1年ぐらいで書けたのですが、この本のために数学の勉強を改めてし直したのと、自分の中に落とし込むのに時間がかかってしまいました。「まえがき」に記しましたが、以前勤めていた大学で、学生に「なぜ吹奏楽はスポーツじゃないのですか?」と聞かれてきちんと答えられなかったことがくやしかったんです。答えられないならスポーツの研究者じゃないなと思って、自分への挑戦みたいな感じで書きました。

学生に期待することは?

関 物事を批判的に見ることができる学生になってほしいです。私自身スポーツを座学として教えているので、スポーツはいいもんだって思い込んでいたのですが、ふとそれは本当なのかって疑いを持つようになりました。今回の著書の第4章に「スポーツは道具である」というくだりが出てくるのですが、道具はいい人が使えばいいんですけど、悪い人も使えちゃうんですよね。たとえば、ナイフ。調理するために使えば、具材をカットするために優れた道具ですが、凶器にもなりえます。自分を疑う、あるいはやっていることを疑う目っていうのを学生には養ってほしいし、そこを学生にきちんと教えたいと思っています。

ところで、関先生ご自身は何のスポーツをされていたのですか。

関 長嶋茂雄に憧れて小学校3年生の時に野球を始めたのですが、その後まもなくしてサッカーに移ってからはサッカー小僧でした。中学では選抜チームに所属、高校生の時はキャプテンをしていて、インターハイにも出ました。サッカーは大学でも続けて、サッカーを教えたくて大学の教員になる前は高校の保健体育の先生をしていました。

なぜ、大学の教員に?

関 中学の時のサッカーの選抜チームの指導者の先生が、大学の先生だったんです。その先生から学びたくて、北海道教育大学に進学しました。サッカーを続けるならこの先生、指導者になるための知恵を教えてくれるのもこの先生、と思っていて、当然その先生はサッカーに関連する研究をされていると思っていたのですが、リーダーシップとか、いわゆる組織論の研究をされていたんです。それまでは中学か高校の体育の先生になって、サッカーを教えるってことしか頭になかったので、修士まで進んで一度高校の教員になったのですが、その先生のように研究職に就きたいと思うようになりました。

鹿屋に住んでみての印象はいかがですか。

関 移動手段としてフェリーがあるというのは、衝撃的でした。鹿屋から垂水フェリーに乗って鹿児島市内まで行ったのですが、バスごとフェリーに乗ったのは人生初だったと思います。プチトラベルみたいな感じで、鹿児島市内に行くのが楽しみになりました。

趣味は?

関 本を読むのは好きですね。数学が好きでもともとは理系だったのですが、高校3年生になってから「違う!」と思って文系コースに変えてもらったんです。あまり本を読む機会もなかったので、楽しさを覚えてから読書が好きになりました。専門書は仕事柄読まざるを得なくて読むんですけど、嫌いではないですね。小説も読みます。村上春樹が一番好きで、全巻持っていますし、英語でも読みました。プラトンは愛読書のひとつです。数学にしてもスポーツにしても、研究をつきつめていくとソクラテスやプラトンが考えていた哲学にいきつく気がしています。今や私の中では数学も哲学も一緒、ひとつになっています。

最後に今後の予定を教えてください。

関 学内外の大学の先生方にお声掛けして、大学生向けの体育スポーツ健康概論のようなテキストを今年中に出す予定です。最近では「空気」の研究をしたいなって思っていて。いい雰囲気、悪い雰囲気ってあるじゃないですか。何をもってそうなっちゃうのかなっていうのが気になっており、その研究に取り組み始めています。意図してつくられているものなのかどうなのか、そのあたりを探っていきたいと思っています。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。