日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ生命科学系 髙井 洋平

夕方4時。サッカー部が練習を始める時間になると、NIFS2nd監督・副顧問としてサッカー場に向かう髙井洋平先生の姿がある。「研究者がデータを取って、いくらあなたはこうだからこうしなさいと言っても、普段接していないと選手たちは聞かないですよね」の言葉通り、学生と直接触れ合う時間を大切にしているのだと思う。広報室会議では、柔軟な発想で次々に斬新なアイデアが飛び出す。本学のキャラクター・バラランのLINEスタンプも、実は髙井先生からの提案だった。スポーツイノベーション推進機構のスポーツサイエンス部門長も兼務する多忙な日々ながら、次世代の研究者を育てるために、大学院生の指導にも真摯に取り組んでいる。

研究内容をひとことで言うと。

髙井 運動をしたら身体がどういうふうに変わるのか、ということを研究しています。それに加えて現在はサッカー部のコーチもしているので、集団で練習することの意義を知るための研究をしています。たとえば、うまい人同士の組み合わせとそうでない場合に、同じ練習内容をしたときに選手の動きがどう違うのかなど、練習時の集団行動がどのようなメカニズムで起こっているのか、といったものです。

早稲田大学のご出身ですが、学生時代の思い出は?

髙井 サッカー少年だったので、関東でサッカーをしたくて広島から上京しました。学生時代の思い出はサッカーしかないですね。サッカー部では主務をしていたのですが、OBの対応や国立競技場で早慶戦をやるために慶応の主務の人たちと一緒になってクラブの運営のようなこともしていました。当時はサッカーだけしていたいのになんでこんなことまで、という気持ちも少なからずありましたが、今振り返るととてもいい経験をさせてもらったと思います。

大学教員になったのは?

髙井 学生時代は漠然とですが、体育・スポーツに関連する仕事に就きたいと思っていました。早稲田の大学院生時代、のちに本学の学長になる福永哲夫先生の研究室に所属していました。当時の自分にとっては場違いな、世界的な研究者の卵たちのグループといった雰囲気の研究室で、そこで企業との共同研究に携わる機会があり、大学の先生は研究と教育の両方にかかわれる魅力的な職業であることに気が付きました。修士課程1年のときに先輩に誘われて月1の論文指導会に参加したのですが、そこに当時東大の教授だった現学長の金久博昭先生がいらして、それはもう朝から1日中ダメ出しされながら厳しくご指導いただきました。研究室の雰囲気やそのときのメンバー、福永先生、金久先生に出会ったのが大きかったと思います。

本学とKKB鹿児島放送が共同プロジェクトとして推進している「Exseed(エクシード)」。髙井先生がトレーニングの要素を伝えて、本学の栫ちか子准教授がダンス風にアレンジして完成させた約5分間の運動ですが、県外まで普及してきています。髙井先生はExseedの名づけ親でもありますが、、、。

髙井 福永先生が提唱している“貯筋運動”が全国区になった例を見ておりましたので、広めていくためにはキャッチーな言葉が大事だということはずっと意識していました。出張でたまたまソラシドエアに乗っていた時に、偶然「空から笑顔の種を蒔く」というアナウンスを耳にして、運動の種を蒔く=「エクササイズ+シード」がひらめきました。子どもたちの体力づくりに関する研究は随分前からやっていたので、ここまで広まってきているのは栫先生のダンスとKKBのメディアの力が大きいと感じています。ひとりの力では限界があり、共感してくれる人が彩りを付けたり味付けをして、一緒に盛り上げてくれることが大事なのだと今回のケースで気づかされました。

大分、名古屋でも広がってきています。

髙井 名古屋はここの卒業生で特別支援学校の先生をしている小川邦生さんがとても積極的に動いてくださり、肢体不自由な子どもたちに車いすバージョンのExseedを指導してくださっています。子どもたちに運動の種を蒔いて、将来アスリートを目指しましょう、という発想と同じく、将来パラリンピックの選手が生まれる可能性にもつながっていくことを期待しています。

本学の学生に期待することや感じていることを教えてください。

髙井 高校まで続けていたスポーツを大学でもやりにくるというモチベーションは良いと思いますし、さらに極めてもらったらいいと思います。一方で、スポーツを通じて教養や素養みたいなものを身に付けて自分を高めていってほしいです。社会に出たときに、学生時代はただ単にきついことをやっていました、で終わるのではなく、スポーツをしていたことを言語化していって他の分野の人たちと話ができるような学生に育つことを期待しています。鹿屋という土地柄もあるのかもしれませんが、とても純粋な学生が全国から集まってくる傾向にあることと、国立大学ならではの優れた機材もたくさんあるし、面白い先生たちもいるので、きっかけさえ与えればすばらしい人材が育つ環境にあると思います。

髙井先生から見た本学の印象は?

髙井 ポテンシャルが高い大学だということは、着任した時からずっと思っています。特に私自身は、“博士(スポーツ科学)”なので、専門でスポーツ科学をやれる単科大学はここしかないという意味では、いきなり最終ゴールにたどり着いた感じですね。

最後に今後の抱負を。

髙井 少子化が進む中、運動部活動数、運動部員数は減少傾向にありますが、私自身はスポーツをやってきたことは人格形成という意味でもとてもよかったと思っています。スポーツに関わる人を増やすためにも、トレーニングをしたら人の身体がどう変わるかというところの研究を突き詰めて、Exseedのように世の中に広めていけたらと思います。大学が出すコンテンツはとても大事だと思っているので、そこのところは大学教員である以上信念をもってやっていきたいですね。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。