日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ生命科学系 中垣内 真樹

大学のスポーツ資源を活用した地域活性化に貢献するため、「健康増進教室」や「介護予防教室」などの企画・開催に積極的に取り組んでいる中垣内真樹先生。令和3年2月に大学周辺9町内会の有志で結成された「花岡おこし会」との連携ではじまった健康づくりの事業には、毎回地元の元気な高齢者が集う。今年3月には高齢者の交通事故をなくそうと、鹿児島県警と本学が共同で制作した「安全運転体操」の監修も務めた。中垣内式運動日めくりカレンダーの制作やウォーキングコースの開設など、アイデアはとどまることを知らない。大学にほど近い、地元古江町の出身。高齢者に亡き両親の面影を重ね、最高の笑顔で指導にいそしみ、東奔西走する日々を送っている。

中垣内先生の研究内容をひとことで教えてください。

中垣内 高齢者が活動的、あるいは元気に過ごせるための運動プログラムの作成をしています。

長崎大学から2017年に鹿屋体育大学に着任されました。きっかけは?

中垣内 長崎大学では、地域でフィールドをつくって地域貢献をしつつ、そこから高齢者のデータをいただくというスタイルで研究活動を行っていました。長崎に骨を埋めるつもりでいたのですが、鹿屋体育大学で健康づくりや介護予防に関する分野での公募が出たことを知り、自分の生まれ故郷で地域を元気にできるのであれば、最高だと思いました。まさか鹿屋に帰ってこられるとは思っていなかったので、うれしかったですね。

鹿屋高校から筑波大学に進学したのは?

中垣内 もともとは高校の体育の教員になりたいと思って大学には行ったのですが、大学2年生の頃にはより専門性の高い大学教員の方がいいのではないかと思うようになり、大学院(博士課程)に行くことを決めました。指導者になる以上は競技も一生懸命やりたいと思って、1年生から陸上競技部に所属して競技にのめりこんでいたのですが、あるとき母親から電話がかかってきて、「あなた体育が専門の大学に行っているよね。生活習慣病で病院を受診していて、先生から運動をしなさいと言われるのだけど何をしたらいいの?」と聞かれて、その時すぐに答えられなかったんですね。そのことがきっかけで、健康づくりの勉強もしっかりやりたいと思うようになりました。競技をやりつつも、少しずつ健康運動の指導者の勉強へとシフトしていった感じです。競技力向上のためのトレーニングの考え方と、健康づくりの運動プログラムの作成の考え方は非なるものと思われがちですが、実は同じなのですよ。研究を進める中でそのことに気づけたことは、自分でも興味深かったですね。もしも本学の卒業生が就職で健康づくりの仕事に携わることになったら、アスリートとして自分の弱いところを克服しようとしてプログラムを考えた経験は、必ず生かされると思います。

大学4年生だった1994年に、第70回東京箱根駅伝に選手として出場されています。陸上競技はいつから?

中垣内 中学までは野球をやっていましたが、当時も駅伝に駆り出されてそれなりの結果は残していました。高校が進学校だったこともあり、野球部に入ってもあまりスポーツに専念する時間はとれないだろうと思って、個人でやれる陸上競技部に転向しました。第70回の箱根駅伝は、記念大会ということで出場校の数がそれまでの15校から20校に増えた年だったんです。筑波大学は比較的常連出場校だったので、出場できるのではないかと期待して、1年生の時から箱根駅伝出場を目標に月に1000㌔ぐらいは走っていました。1日平均30㌔以上走っていたことになります。

2区を逆走する9区は、最長区間の23.1㌔で復路のエース級が競うと言われています。9区を走って思い出されるのは?

中垣内 まず驚いたのは、観客が多すぎて左の耳が耳鳴りしている状態に陥ったことです。ハーハーという自分の息遣いも聞こえず、最初は調子がいいんだと勘違いしていました。9区は横浜駅周辺を通るコースですが、当時は日テレ系のKYT鹿児島讀賣テレビが開局する前でしたのでテレビでのフル中継がなく、家族が鹿屋から応援に来てくれたのですが、結局人が多すぎてどこで応援していたのかもわからない状況でした。

特定非営利活動法人ウェルスポ鹿屋の理事長も務め、地元花岡地区をはじめ各地で地域住民の健康・体力づくり、介護予防につながる「スクエアステップ教室」やサロン活動にも積極的に取り組まれています。花岡地区と一緒にやり始めたのは?

中垣内 鹿屋市が地域住民と地域の困りごとについてのグループワークを開くので、地元にある大学として参加してもらえないかとお声掛けいただいたのが始まりです。地元出身者として私もとても関心があって学生と一緒に参加させてもらったところ、元気に齢を取りたいよね、免許証を返納したあとの買い物が大変だよねっていった話題が出てきて。研究で得た知識を地域に返していくのはまさに自分がやっている研究内容でしたので、協力します、ということで今日に至っています。

中垣内先生から見た鹿屋体育大学と鹿屋の魅力は?

中垣内 スポーツに関する勉強ができる環境は、日本で唯一の国立の体育大学ですからかなり恵まれていると思います。鹿屋の魅力はやはり自然が豊かだということじゃないでしょうか。自然を体感しながらのウォーキングは、相乗効果も高まると思います。ただ、大学というところはどうしても敷居が高いといった声を耳にするので、もっと自由に大学に入ってきてもらえたらという想いも込めて、今年3月にキャンパス内にウォーキングコースを開設しました。大学が地域住民の方たちにとって、もっと身近な存在になればいいなと思っています。

中垣内先生が求める学生像は?

中垣内 スポーツ好きでスポーツのことを学びたいという学生が一番だとは思いますが、もしかしたらスポーツは嫌いだけど学びたい、でもいいのかもしれません。というのも、健康づくりの運動は恐らくスポーツが苦手だった人の方が上手に指導できるのではないかと思うからです。一般的に指導を受けたいという人は、もともと運動が苦手だったという人が多いので、相手の気持ちがわかるということは大事かもしれません。

最後に、ヘルス・スポーツプロモーション部門長でもある中垣内先生の今後の目標を教えてください。

中垣内 健康運動指導士の資格を取得する学生の数は現状ではまだ少ないのですが、健康づくりのことについても目を向けてくれる学生がもっと増えたらと思っています。研究成果を出して、地域貢献についてこれからもどんどん発信していきたいですね。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。