日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

自分に厳しく、人にやさしい。世の中にたくさんいそうで、実はあまりいないタイプが沼尾成晴先生だと思う。物静かで無口だが、人の話に耳を傾け、きちんとアドバイスをする姿から穏やかで誠実な人柄が伝わってくる。学生時代は陸上競技の長距離選手で、現在も週末のジョギングは欠かさない。目標への妥協を許さず、ストイックなまでに自分を追い込める意志の強さと志の高さは尊敬でしかない。大事にしている言葉が「一日一生」だと聞いた翌日、多くの視聴者から高い評価を得ている映画『栄光のバックホーム』を観に行くと、偶然にもこの言葉が登場して深く心にしみた。「体力的に最後」と、今年3月には鹿児島マラソンにも挑戦する。常に未来を見据え、今できることに最善を尽くす姿がカッコいい。

研究内容をひとことで言うと?

沼尾 運動をすることによって体脂肪がどのように変化していくのかを、量的な変化だけではなく質的な変化にも着目して研究しています。体脂肪から分泌されている物質はたくさんあって、運動をすることにより変化することが明らかになっています。その変化が生理学的にどのような意義を持つのかを明らかにし、一般の方にとって効果的な運動を開発するところまで発展させられたらと考えています。また、身体の状態や疾患の有無を示す生理学的指標のことをバイオマーカーと呼びますが、体脂肪から分泌される物質が運動の効果を表すバイオマーカーとして利用できるようになれば、もっと運動をした方がいいよね、といったことを感じてもらえ、一般の人に対する運動の啓蒙や促進につながるようになるのではないかと思っています。内容的には競技力向上というよりは、健康増進に関する研究ということになります。

沼尾先生はこれまでどんなスポーツに携わってこられたのでしょうか。

沼尾 小学生の時は野球をしていたのですが、持久走が得意だったので、中学生になったら陸上競技(長距離)をやりたいと思っていました。ところが中学に陸上競技部がなかったので、剣道部に入りました。高校生になってようやく、陸上競技(長距離)をやることができました。

茨城大学教育学部に進学したのは?

沼尾 残念ながら第一志望の大学に受からなかったことが理由の一つです。もともと体育・スポーツを学びたい、という気持ちはあったので、体育学部や教育学部の保健体育課程を志望していました。それと、箱根駅伝に出場したいと思っていましたので、おのずと関東の大学に絞っていました。ただし、実際に箱根駅伝本戦に出場するのは至難の業と思っていましたので、せめて予選会には出場したいという思いがありました。そのような考えから、スポーツや体育のことが学べて、予選会を走れる可能性があった茨城大学を選択しました。恐らく茨城大学に行かなければ大学院に進学しようとは考えなかったと思うので、結果的には将来につながる選択だったと思っています。

大学院に行こうと思ったのは?

沼尾 大学生の時はどうしたら自分のパフォーマンスを効率よく向上できるかに興味があって、独学で勉強していました。その過程で、運動時のエネルギーについて学んだ際に体脂肪に興味を持ちました。運動中のエネルギー源として脂肪は重要です。できるだけ効率的に脂肪を使用したり、脂肪を減らしたりすることがでるようなトレーニングをすれば長距離ランナーにとってパフォーマンスの向上にもつながるのではと考えました。そういったことをもっと深く勉強したいという思いもあり、大学院に進みました。

大学の教員になったのは?

沼尾 最初から大学教員を目指していたわけではありません。ただ、筑波大学大学院に当時の一貫性博士課程で入学したので、博士まで5年間学ぶのであれば、将来の職業は研究所か大学かの選択肢になるのかな?というのは、漠然と思っていたように思います。

早稲田大学、京都薬科大学を経て、2019年に本学に着任されました。鹿屋に行こうと思ったきっかけは何だったのでしょう。

沼尾 自分自身が体育・スポーツをやってきたので、それらを専攻する学生を教えたいという思いがあったからです。鹿屋体育大学で専門的知識を身に付けた学生が社会に出て、運動の重要性について普及・啓蒙し、最終的には世の中の個人一人ひとりが主体的に健康をコントロールできるようなヘルスプロモーションに繋がっていけたらと思います。

沼尾先生が考える、本学の魅力は何でしょう。

沼尾 トレーニングに関する施設の設備はもちろん、研究・教育などあらゆる環境が整っていることだと思います。でも、学生自身はいかに恵まれているかということにあまり気づいていないような気もします。他の大学を知らないので仕方のないことですが、もっとこの恵まれた環境をうまく利用して、活動の幅を広げてほしいですね。

学生に期待することは?

沼尾 大学ってすごく自由な時間が多いと思うんですよね。もちろん、本学の場合は課外活動をしたいから来ている、というのはあると思うのですが、部活だけではなく、自己研鑽のためにも時間を使ってほしいなと思います。自分も部活ばかりの学生生活で、今振り返っても視野が狭かったなと思うので、例えば留学したり、資格を取ったり、といったことにも目を向けて4年間を過ごしてもらえれば、将来きっと役に立つと思います。自戒も込めての発言になりますが(笑)。

好きな言葉や座右の銘があれば教えてください。

沼尾 「一日一生」という言葉があって、一日を一生のように大切に一生懸命生きろという意味です。2011年の東日本大震災で、いつ何が起きるかわからないということを痛切に感じました。もかしたら明日事故に遭うかもしれないし、自然災害が起きるかもしれない。病気になるかもわからないし、突然死することだってあるかもしれない。人生いつ何が起きるか分からないから、悔いのない人生を送れたらいいなという意味で、この言葉を大事にしています。   

最後に今後の目標を教えてください。

沼尾 派手な研究というよりは、本質的な部分を追求するような研究を継続的にやり続けられればと思っています。するめみたいに、噛めば噛むほど味が出る研究が理想ですね(笑)。  

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。