日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

株式会社 電通九州

前田 佳代乃さん

まえだ・かよの。平成3年1月13日、兵庫県西宮市生まれ。兵庫県立西宮高校から鹿屋体育大学に進学。4年生の平成24年、ロンドンオリンピック代表選手に選出される。平成25年3月、鹿屋体育大学スポーツ総合課程卒業。卒業後は京都府自転車競技連盟所属選手として活動。2018年9月、全日本選手権自転車競技大会トラック種目女子スプリント決勝で10連覇を達成し、引退。日本オリンピック委員会の「アスナビNEXT」を利用し、2019年2月1日付けで電通九州に入社し、現在に至る。

「自分の身長ぐらいにはなっているかな?と思ってきたんですけど、2~3mありますね!」。鹿屋体育大学在学中に女子自転車競技で日本新記録を出すたびにキャンパス内に植樹した記念樹の数は、現在確認できるだけでも15本。成長した樹木に手を添えて、卒業以来初めて訪れたキャンパスで満面の笑顔をみせた。大学4年生の時にはロンドンオリンピック代表選手に選ばれ、卒業後も女子自転車競技界の第一人者として活躍した。2018全日本選手権自転車競技大会トラックの女子スプリントで、10連覇を達成した日に電撃引退を発表。現在は電通九州に入社し、元アスリートとしての目線を生かしながら新たな活躍の場を広げている。常に志を高く持ち、自身の力で道を切り拓いてきた。もうひとつの大輪を咲かせるべく、新たな挑戦の日々は続く。

自転車を始めたきっかけはお父様だそうですね。

前田 父が職場の有志でつくる自転車部に所属していたので、大会の応援に行った際に子どものレースもあることを知って小学校2年生から始めました。2006年に兵庫国体があったのですが、兵庫県ではそのときに高校生になる小学生を強化する特別強化事業というのがあって、小学生の頃から週末は明石公園陸上競技場を自転車で走るようになりました。このときの経験が人生の転機につながったと思っています。

県立西宮高校には自転車部がなくて、“一人自転車部”だったそうですが、高校時代から第28回アジア自転車競技選手権大会ジュニア部門500m個人タイムトライアルで優勝するなど、頭角を現していました。鹿屋体育大学に進学したのは?

前田 将来は体育の教師になりたいという漠然とした思いがあり、親も国立大学ということで乗り気でした。ほかの大学からも推薦で声がかかっていたのですが、親に4年間自転車で頑張る気があるのだったら、自転車競技に打ち込める環境のところに行った方がいいんじゃないかと言われて、自分でもその通りだと思ったんです。でも鹿屋は思っていた以上に遠くて。職員さんが話す鹿児島弁がわからず、まるで外国に来たようでAO入試のために訪れた初日から衝撃を受けました。

4年生のときにロンドンオリンピック代表選手に選ばれ、卒業式では答辞を読むなど大活躍でした。卒論の内容も優秀だったと聞いています。

前田 課外活動やナショナルチームでの活動がメインの生活で、遠征で大学を不在にすることも多かったのですが、教員免許も取りましたし、卒論も頑張りました。自分では4年間学問も手は抜かなかったつもりです。何のために学費を払って大学に行っているかということを常々家族に言われていたこともあり、学業優先という意識は常にありました。前田明先生が担任だったというのも大きかったと思います。「みなさんAO入試で入ってきていますけど、もちろん勉強も頑張りますよね」って、入学式の初日に言われて、「あ、やられた」と思ったことは今でも覚えています(笑)。

大学卒業後も京都府自転車競技連盟所属選手として活躍しました。

前田 大学4年生の時にオリンピックに出たこともあって、多少なりとも自分に競技者としての責任が発生したと考えるようになりました。当時は女子の自転車競技の短距離選手がまだ少なくて自分自身がとても苦労したので、自分の経験を引き継げる下の世代が出てきてバトンを渡せるまでは頑張ろうと決めました。競輪選手でなくてもナショナルチームで活躍できるということは、少しなりとも示すことができたかなと思っています。

2018年、女子スプリントの10連覇達成後の突然の引退宣言で世間を驚かせました。

前田 やっとあとを任せられる若い後輩が出てきたんです。それと自転車だけが自分の人生ではないということをずっと思っていて、自転車というものが自分からなくなったとき、あなたそれだけのひとだったのねってなるのは嫌だなと思っていました。なので、次に何をやるか決めていない状態で辞めたんですよ。

日本オリンピック委員会(JOC)が実施している、引退したトップアスリートのセカンドキャリア支援「アスナビNEXT」を利用して2019年2月に電通九州に採用されたそうですね。

前田 そういう制度があると知って、自分で電話しました。行動力だけはあるので(笑)。元選手としての経験や選手目線を今の職場で生かし、自分もまた成長できたらと思っています。

最後に今後の抱負を。

前田 電通九州では現在世界水泳の仕事をしています。2022年に世界中から選手が来てくれて、あの大会はいい大会だったと言ってもらえるように、推進室のチームの一員としてまっとうしたいです。実は自転車競技の審判員の資格を取りました。自分を育ててくれた自転車の業界には、これからもかかわっていきたいですね。

(取材・文/西みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。