日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

日本山岳・スポーツクライミング協会ユース日本代表ヘッドコーチ

西谷 善子さん

にしたに・よしこ。昭和59(1984)年5月29日、京都府京都市生まれ。国際武道大学卒業後、鹿屋体育大学大学院修士課程体育学専攻に進学。2015年博士後期課程修了。公益財団法人日本山岳・スポーツクライミング協会理事、強化副委員長、ユース日本代表ヘッドコーチ。日本オリンピック委員会ナショナルコーチ。都内の複数の大学で非常勤講師も務める。

本学でクライミングをテーマに博士号を取得し、現在はユース日本代表のヘッドコーチを務める西谷善子さん。大学院時代に指導教員を務めた山本正嘉本学名誉教授は「誠実無類の人柄で、彼女の科学的かつ人間味あふれる親身な指導でユースチームは何年も前からメダルを量産している」と絶賛する。非常勤講師を務める、立教大学池袋キャンパスでのインタビュー。謙虚で物静かながら芯が強く、ぶれない懸命さが話をするほどに伝わってきた。まさに、陰の立役者と言える。スポーツクライミングに関して日本で唯一の博士という専門的視点を生かし、終わりの見えないチャレンジはこれからも続く。

クライミングの研究をしたくて、本学大学院に進学されたと伺っています。

西谷 その通りです。好きが高じて、その当時スポーツとしての認知度も低く、まだ誰も行っていなかったクライミングの研究がしたいという思いで、鹿屋体育大学の大学院に進みました。

本学を選んだのは?

西谷 スポーツトレーナーになりたいと思っていたので、大学はその専門の学科がある国際武道大学を選んだのですが、学んでいくうちに職業にしていくのはなかなか難しいのかなと感じ始めてきて。そんな頃、当時所属していた小西由里子先生のゼミでの研究が面白くなってきて、大学院に進みたいと思うようになりました。ある時、小西先生に「クライミングの研究をしたいと思っているんですけど」と相談したところ「日本でただ一人、山の研究をされている先生がいるから」と、鹿屋体育大学の山本正嘉先生を紹介していただきました。博士は国立スポーツ科学センター(JISS)との連携大学院で学位単位を取得したので、鹿屋には修士の2年間しかいなかったのですが、研究と山に専念できる環境が整っていて、行ってよかったと思いました。小西先生も山本先生も自分がやりたいことは何か?というところを掘り下げて、そこを尊重して育ててくださったので、お二人の恩師がいなかったら今の西谷は形成されていないと思っています。今でも山本ゼミの同期や先輩方に助けられています。

クライミングとの出合いは?

西谷 もともとは陸上とサッカーをやっていて、高校では陸上競技部に所属して長距離を走っていました。国体の山岳競技に、重たい荷物を背負って山登りのタイムを競う縦走種目があり、一時的にその期間だけ長距離選手が駆り出されたのです。京都の選抜選手を選考するための山が、たまたま私が通う高校の近くにあったのがきっかけで、高校1年生の頃から国体に縦走選手として出場していましたが、高校3年生の時にクライミングが導入されて、縦走・クライミングの兼任選手として出場しました。まったく違う畑からクライミングに入って、今その世界にいます。

大学の非常勤講師もされていますが、現在のお仕事の内容は?

西谷 2008年から日本山岳・スポーツクライミング協会でユース日本代表のコーチとして携わってきていたのですが、博士を取得した翌年の2016年からユースのヘッドコーチにならないかとお声掛けをいただいて、今はそれがメインの活動になっています。14~19歳がユースの国際大会に出られる年齢なので、4年後・8年後のオリンピックを見据えて活躍できる選手たちを育てて、卒業させていくのが毎年の私の務めです。大学では、競技の魅力を伝えつつ、初心者の学生にクライミングを教えています。

スポーツクライミングがオリンピックの競技として実施されたのは、2020年東京オリンピックからだそうですね。

西谷 その2~3年前からクライミングジムは増えてきていたのですが、遊びから入っているスポーツなので、スポーツ科学などメジャースポーツで当たり前に行われていることの視点を取り入れたらもっと強くなるだろうなという私自身の思いはあっても、当時はクライミング関係者になかなか理解してもらえず苦労しました。私自身、選手として活動していた時期が短く、世界的に有名なわけでもないので、その点でも認知されるまでに時間がかかりました。いかなる状況においても信念を持ってこつこつと続けてきてはいますが、未だに組織で働くことの大変さを感じつつ、壁にぶつかりまくっています。私なりにクライミング界にない視点を持っているという強みを生かして、これからも少しずつでも前に進んでいけたらと思っています。

最後に後輩たちへメッセージをお願いします。

西谷 私が伝えたいことは「未来を決めつけず、とにかくやってみる」「好きなことに没頭してみる」「今の仲間たちを大切に」「素直、謙虚、感謝、貪欲の気持ちを忘れない」の4つです。私自身大学院進学でクライミングの研究という新たな道へ進むことは不安で勇気がいることでしたが、恩師をはじめ周りの仲間たちが理解を示し、背中を押してくれたことで私の人生は大きく変わりました。自身の経験を通して言えることは、自分から起こした行動に無駄なことは一つもないということです。やってみなければ結果は見えないし、主体的に動かないことには、プロセスも大切にできません。踏みとどまっていて迷っている人がいたら、ぜひ目の前にあることに挑戦してみてください。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。