日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

パリ五輪金メダリスト徳洲会体操クラブ

杉野 正尭さん

すぎの・たかあき。1998年10月18日、三重県生まれ。福井県立鯖江高等学校から、2017年4月鹿屋体育大学スポーツ総合課程に入学。同年6月、全日本体操種目別選手権のあん馬で初優勝。2019年7月、同選手権のあん馬で再び優勝。補欠として臨んだ東京五輪を経て、2022年9月、第55回全日本シニア体操競技選手権大会個人総合優勝、2023年6月、第77回全日本体操種目別選手権のあん馬で優勝、同年9月、第56回全日本シニア競技選手権大会個人総合優勝。2024年3月、鹿屋体育大学大学院修士課程修了。パリ2024オリンピックでは体操男子団体、男子種目別あん馬、鉄棒に出場し、男子団体の金メダルに貢献した。同年紫綬褒章受章。徳洲会体操クラブ所属。

体操男子「金」に杉野(鹿屋体育大学卒)が貢献─。パリ五輪での逆転劇をたたえ、地元新聞の号外をはじめメディア各紙に大きな見出しが躍った。杉野正尭さんのダイナミックで完璧な演技に、日本中が沸いた。鎌倉市にある徳洲会体操クラブの新拠点、「徳洲会ジムナスティクスアリーナ」でのインタビュー。キャプテンを務める徳洲会体操クラブは、第78回全日本体操団体選手権でも男子団体3連覇を果たした。悔しさをバネに、いつか必ずと信じてつかみ取ったオリンピックへの道。学生時代、オリンピアンに一番近い存在として多くのメディアに出てもらった。金メダルを取ってもあの頃と少しも変わらず、さわやかで自然体のまま。秘めた想いは今も昔も変わらず、だれよりも熱い。母校の魅力を発信してもらうべく、「鹿屋体育大学アンバサダー第一号」も委嘱された。少年のように澄んだ瞳は早くも4年後のロス五輪を見据え、「演技を極め研ぐ」という兄からの言葉を胸に揺るぎない闘志に燃えている。

まずはパリ五輪での体操男子団体金メダル、おめでとうございます。

杉野 ありがとうございます。体操競技人生の中で1番の目標にしていたので、月並みな表現になりますが、心からうれしかったです。

本学に入学した年の6月、全日本体操種目別選手権のあん馬で優勝を果たしました。

杉野 自分の可能性を信じてもいいんだと思えてきて、絶対にオリンピックに出てやるという想いが強くなったときでもありました。

3年生で再び優勝しました。

杉野 初優勝のときに比べると、うれしさというよりは着実に一歩ずつオリンピックに向かって進んでいる、という感覚の方が強かったですね。

杉野さんにとっての鹿屋体育大学とは?

杉野 夢を目標に変えられた場所です。今の自分自身をつくりあげてもらった場所のひとつでもあるので、ものすごく感謝もしていますし恩返しをしたいと思っています。どのような練習をすれば強くなって日本のトップになれるのか、とことん競技と向き合った4年間だったと思います。鹿屋体育大学は、競技に150%集中できる場所だと思います。

なぜ大学院に?

杉野 体操だけやっていると体操の世界しか見なくなってくるので、自分の可能性や視野を広げたいと思いました。研究には客観的視点が求められます。自分の演技や動きを一歩引いて俯瞰して見ることができるようになったのは、修士論文を書いたことで得られた能力だと思っています。

挫折しそうになったとき、研究者の道に進んだ2番目のお兄様の言葉に救われたとか。

杉野 兄の言葉はスマホの待ち受け画面にしています。「努力は往々にして報われない。でも勝つためには努力し続けるしかない」というくだりがあって、オリンピックに行って金メダルを取るってそう簡単なことではないし、頑張っても届かない人もいる。まだ始まってもいないのにあきらめるようなことをしちゃダメだな、もう1回一からやり直して頑張ろうと思えました。

亡きお父様への恩返しのためにも、オリンピックで金メダルを取りたかったそうですね。

杉野 母は試合を見に来るときは、いつも父の写真を持ってきています。父はいなくなってしまったけれど、目標は達成できて、母と2人の兄たちにパリまで応援に来てもらって金メダルを見せることができたことは幸せな経験だったと思います。 

徳洲会体操クラブのキャプテンも務めています。今後の夢は?

杉野 4年後のロス五輪が私の競技人生のひとつの区切りだと思っているので、団体2連覇はもちろん、個人でも金メダルを取って最高の結果をつかみ取りたいと思っています。キャプテンとしては、みんなが気持ちよく体操ができるようにということを1番に心掛けながら、徳洲会体操クラブを競技力だけでなく組織的にも人として世界に誇れるような日本一、世界一のチームにしていけたらと思っています。最高の施設で練習できているということに対して、徳洲会グループのみなさんに感謝しています。現状に満足せず、これからも常に自分が上達するためには何が必要か、ということを問い続けていきたいと思います。

最後にメッセージをお願いします。

杉野 私自身、頑張ったけれどうまくいかないという経験をたくさんしてきました。あと一歩、あと一歩、と毎年言われ続けて苦しかった辛い経験を踏まえて言えることは、最後まで夢や目標をあきらめてほしくないってことです。たとえ0.1%でもチャンスがあるのなら、その可能性にすがってみてもいいんじゃないかと思います。何事も全力でやることが大事で、その方が絶対に人生が楽しくなると思います。がむしゃらに頑張ることはダサくない。学生の頃は可能性が無限にあると思うので、スポーツや学問に限らず、自分の中の可能性をぜひ見出してほしいです。夢に向かって頑張る後輩たちを、応援しています。 

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。