日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ・武道実践科学系 下川 美佳

下川先生の写真

「第41回全日本女子学生剣道優勝大会」で優勝し、最多優勝記録を11回目に更新した女子剣道部の監督を務める下川美佳先生。「私ひとりが指導をしているわけではない」と、剣道部部長の前阪茂樹先生、男子監督の竹中健太郎先生を敬う気持ちを常に忘れず、礼節を尊ぶ根っからの剣道人・武道人である。短い髪で颯爽と歩く姿は女性から見てもかっこよく、一見クールだが笑うとチャーミングでやさしい顔立ちになり、繊細で気配りもすごい。大学の広報誌「蒼天」のバックナンバーのファイルを開けば、剣道の世界大会に出場するなど学生時代の活躍が目に飛び込んでくる16期の卒業生でもある。母校愛と芯の強さを胸に秘め、後進の育成に尽力する日々を送る。

研究内容をひと言で言うと?

下川 剣道実技の実践にかかわる、技術力向上を目指した研究をしています。剣道という分野は実技を切り離すことができないので、そこが私の特色になっていると思います。

下川先生が初めて竹刀を手にしたのは小学校1年生の時だったとか。きっかけは?

下川 いつも一緒に遊んでいた幼なじみが兄弟全員剣道をしている家で、小学校に入ったらその子も剣道をやるというのでついて行ったんです。そしたら「きょうから入部する下川さんです」って紹介されてしまって。幼稚園の時は柔道を習っていたので「え? 私剣道やるの?」っていう驚きの始まりでした。

久留米のご出身ながら、当時の女子剣道部の強豪校・阿蘇高校に進学しました。

下川 福岡では毎年剣道のオープントーナメント「玉竜旗高校剣道大会」が開催されており、全国から剣道の強豪校が集まってきます。阿蘇高校の女子はこの大会で何度も優勝していた有名校で、高校に一度見学に行ったんです。指導者の泉勝寿先生のご自宅の敷地内に道場と木造の男子寮、女子は民家を改装した寮があり、とっさにここに入学してここで強くなりたい!と思いました。でもいざ入学してみると、1年生の時は選手にもかからないようなレベルで自分の力がまったく通用しなくて。家に帰りたいと言ってみたりで、両親は困ったと思います。高学年になるにつれ、自分の上達が実感でき楽しくなりました。

16期生ですが、鹿屋体育大学に進学しようと思ったのは?

下川 競技力が突出して高かった、というのが1番の理由です。高校3年生の時に熊本の国体選手に選ばれて、稽古試合をお願いしに鹿屋体育大学を訪れたことがあったんです。全日本女子学生剣道優勝大会で優勝している大学なのでAチームが強いのはわかっていたのですが、BチームもCチームも強くて「この大学、強いわー」と感じて、自分がどれくらいこの大学でやれるのか、やってみたいと思いました。総監督の國分國友先生(範士八段)のほかに、有島佳代先生という世界大会に出られた女性の先生がいらしたことも大きかったです。高校時代の剣道の先輩が、男女ともに何人も進学していたことも心強く思いました。

入学後は1年生から全日本女子学生優勝大会の出場メンバーに抜擢されて、大会史上初の3連覇を経験、2年生で4連覇、3年生で5連覇を達成しました。

下川 実は大学院に進学した動機にもつながるのですが、強いと言われていた4年次のチームで負けてしまって6連覇を果たせなかったことで、卒業したら久留米の実家に帰るつもりでいたのが剣道人生を終わらせられなくなってしまいました。当時の心理学の先生が「大学院っていう選択肢もあるよ。研究は剣道についてやればいいと思う」とアドバイスをくださって、早速國分先生にご相談申し上げたところ「行け行け~」って背中を押してもらいました。大学院が競技を続けるためだけの場所と思っていたわけではありませんが・・・。両親が大学4年間のすべての試合のビデオを撮っていてくれたので、それを資料にして学部の卒論は自身の面打ちに関する研究をしました。これが結構楽しくて、大学院に進学してからも調べることは面白いと感じながら研究を続けることができました。

学生時代で印象に残っていることは?

下川 國分先生が「何か物事を言う時は勝って言わないと人は聞いてくれない」と言われていたことを今でも覚えています。負けていて何か言っても説得力がない、指導者は強くないといけないということだと私は解釈しています。一昨年の第13回全日本都道府県対抗女子剣道優勝大会では、恩師の有島先生が大将、私が副将で試合に出させていただきました。今年はかごしま国体もありますし、未だに学生時代の恩師にご指導いただける環境にいるというのは本当にありがたいことだと思っております。この大学、環境にいる限り、現役ですねって言われるように私もまだまだ頑張りたいです。

剣道をやめたいと思ったことはないのでしょうか。

下川 夏は暑いし、冬は寒いし、朝早く起きるのは嫌だし、もともと剣道はあまり好きではありませんでした。ケガをしたらすぐに辞めてやるって思っていたのですが、大学院1年生の時に大学の道場でアキレス腱を切って、そこで初めて3カ月ぐらい剣道をやれない時期があったんです。その時「あー剣道をやりたい」と思って、実は好きなんだと気がつきました。最初に剣道を始めたときの恩師が「下川さん、剣道は好きね~?」ってよく聞かれる方だったんです。「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますが、まさにその通りで、楽しいな~と思い始めるとポンポンポ~ンって試合に勝つようになり、勝つと気持ちよくてまた好きになって、勝ちたいからまた練習して。ある程度行くとそこで1回頭打ちになるんですけど、気を取り直してやり始めるとまたうまくいって、あ、好きかも?って、もうこの繰り返しですね(笑)。周りの方々に恵まれて、ここまできた感じです。

下川先生は現在剣道7段でいらっしゃいます。いずれ8段の受験資格のある年齢に達したら、ぜひ挑戦してほしいです。

下川 現在女性の8段は一人もおりません。しかしながら、武道を前面に出している体育系大学の教員としてチャレンジしないのはちょっと違うと私自身も感じています。この大学に残っている以上は受からない理由を女性のせいにすることなく、受かるように少しでも努力して、しかるべき年齢になったら挑戦したいと思っています。

最後に今後の抱負をお願いします。

下川 私が目指しているのは、剣道好きな剣道人をつくっていくことです。剣道人口が減ってきているので、剣道を好きになってもらえるような指導をして、剣道が普及していくことに少しでも尽力できればと思っています。また、武道に携わる教員として、己を知り、自分自身で成長し、学び続けられるような学生を育てたいです。そのためにもまずは自分自身が研究や競技力の向上、学び続ける姿勢をこれからも大事にしていきたいと思います。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。