日本で唯一の国立体育大学

国立大学法人 鹿屋体育大学 KANOYA

スポーツ・武道実践科学系 髙橋 仁大

テニスの試合が一段落した、夏の終わりのインタビュー。小麦色に日焼けした肌がまぶしく、笑うと俳優のようなルックスに真っ白い歯がのぞいた。手には3年前に20歳で旅立った、教え子の形見のラケット。一見クールで厳しい印象を受けるが、実はやさしい先生なのだと気づかされた。今年1月1日付で本学に設置された「スポーツイノベーション推進機構」のスポーツパフォーマンス・コーチング部門長のほか、「日本テニス学会」の会長も務める。多忙を楽しさに代え、“研究の強化”という終わりの見えない役割にも真摯に向き合う。ポジティブに、飄々(ひょうひょう)と、実に髙橋仁大先生らしいやり方で。

研究内容をひと言で教えてください。

髙橋 テニスのゲームパフォーマンス分析です。具体的にはテニスの試合で起こったことを数字にして、強い選手はこの値が高いとか、こういった傾向にありそうだ、といったことを分析しています。

テニス部の顧問教員も20年以上務めていらっしゃいます。ご自身はテニスをいつから始めたのですか。

髙橋 小学校の3年生です。家の近くのスイミングクラブに通っていたのですが、そこがテニスも始めるということで両親がテニスをするようになったので、一緒に始めました。

筑波大学体育専門学群に進学したのは?

髙橋 中学・高校とテニス部でしたが、中学は地元武蔵野市の公立、高校も都立高校だったので、テニスの強豪校ではありませんでした。高校生の頃は、地域の子ども会活動で小学生を夏にキャンプに連れていく、といったこともしていました。ある日、たまたまNHKの教育テレビで「アウトドアライフの楽しみ」という番組をやっていて、筑波大学の先生が出ていたんです。そのとき筑波大学にはこういう先生がいるんだということを知って、興味を持ちました。学校の先生になりたいという気持ちは漠然とですが持っていたので、親にあなた運動は嫌いじゃないんだから体育の先生っていう道もあるよと言われて調べてみたところ、筑波大学に体育の専門学群があることが分かり、受験を決めました。実技試験が2つあって、野外運動とテニスを選択したのですが、これはもう自分にとっては有利だなって思いましたね(笑)。

その後、テレビの先生には会えたのですか?

髙橋 受験の日に会えました。野外運動の実技試験に「野外で料理をつくるための薪を準備しなさい」という課題があって、よりによって薪割りの試験の最中に指をパーンと切ってしまったんです。試験監督の先生に傷口を押さえて待っとけ、と言われて先生の車で筑波大学の保健管理センターに連れて行ってもらったのですが、その先生こそがテレビの飯田稔先生でした。外科医の先生にその場で4針縫ってもらった後、残りの試験も受けさせてもらえたので無事に合格して入学することができました。自分では「怪我の功名」だと思っています(笑)。その時の傷跡は今でも残っています。

衝撃的な出会いでしたね。大学ではその先生のゼミに入ったのですか?

髙橋 入学したらテニス部に入ったのですが、同期8人のうち経験者は3人しかいなくて、しかも体育の専門からは私1人だけでした。必然的に将来キャプテンになることが予想されたので、野外運動を選択したらスキー合宿やキャンプがあってテニスの試合に出られなくなると思って、結局学部のときはテニスの山田幸雄先生の研究室に所属していました。ただ、野外運動にも未練が残っていたので、大学院に進学したら専攻できると周りからアドバイスをもらって卒業後は院に進みました。ところが大学院を修了する頃に、テニスの山田先生が私のところにやってきて、鹿屋体育大学のテニスの助手のポストが空くことを教えてもらったのです。結局、大学院を修了した年に本学に着任しました。

「スポーツイノベーション推進機構」のスポーツパフォーマンス・コーチング部門長として、現在どのような役割を担っておられるのでしょう。

髙橋 私が理解している金久学長の考え方は、研究を活性化させてくれということだと思っているので、スポーツパフォーマンス研究やコーチングに関わる研究など、スポーツ・武道実践科学系の先生方の研究の刺激になるようなことができればいいなと思っているところです。体制を整えるのが私の役目ですので、今後若い先生方からも新たな研究が次々に生まれることを期待しています。

髙橋先生が考える本学の魅力は?

髙橋 学生数が4学年で800人弱と、こぢんまりしていて学生との距離が近いことだと思います。大学のテニス部でも多いところは100人ぐらいいるところがありますが、うちは20人ちょっと。学生一人ひとりがよく見えて、部活もゼミもものすごくやりやすいです。

テニスの顧問教員として一番印象に残っていることは?

髙橋 2019年に「全日本学生室内テニス選手権大会」で準優勝できたことですね。20年ぐらい指導者をしてきて、初めて全国大会の決勝まで行けたっていうことで、よく覚えています。でも、学生にはもちろん勝ったらうれしいし、負けたら悔しいけれど、大事なことは結果が出た後にあなたたちどうしますか? ということだから、結果で自分を評価しないで、次に何をするかを見つけなさいという話をしています。

うちの学生に期待することは?

髙橋 一番はやはり勉強してくださいってことですね。もちろん自分の競技をやろうと思ってくる子が多い大学だと思うんで、それはそれで大事にしてもらって、授業の中には競技につながる大事なことも何かしらあると思うので、しっかりと学んでほしいです。

村上先生と一緒に公開講座も春秋と年に2回開講されています。

髙橋 公開講座の参加者は上手くなりたいと思って来ている人、みんなと一緒に楽しくやりたいと思っている人など、理由は人それぞれです。その人に合った対応をしていけたら、と思っています。

最後に髙橋先生の趣味を教えてください。

髙橋 あえて挙げるとすれば、落語です。先日は日本テレビ系『笑点』の大喜利メンバーでもある春風亭一之輔の独演会を聞きに、鹿児島市内まで出かけました。移動時間に気分転換を兼ねて落語を聞くことも多いですね。

(取材・文/西 みやび)

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。